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■当らない占い師 シナリオ1〜母と薬〜■ □side-A□

 とある町のはずれに、小さな民家が一軒あった。とても立派とは言えない、小さな小さな民家だ。そこには、一組の母子が住んでいた。

「う、うぅ……」
 ベッドに寝ているチャイルが、苦しそうに呻いた。テーブルを片付けていたマーザは、その声にベッドの横まで歩み寄る。チャイルはつらそうに荒く息を吐き、額には玉のような汗が浮かんでいた。
 チャイルは、一ヶ月程前から病気にかかっていた。貧乏な家なので医者に見せに行くこともできずに、ずいぶん昔に買った薬を服用させながら、ベッドに寝かせ静養させている。
 その小さな体で病気と闘っているチャイルの汗をタオルで拭いてやって、マーザは心配と哀れみで顔を曇らせた。
 きっと、早く治して、早く外で遊びたいだろうに。
 それができない息子を可哀想に思って、マーザは優しくチャイルの頭をなでた。けほけほと咳き込むチャイルに、そういえば今日はまだ薬を与えていないことに気がつく。
「チャイル、大丈夫? 今お薬をあげますからね……」
 マーザは棚から粉上の薬を手に取ると、瓶(かめ)から水を汲み、チャイルに渡した。チャイルは上半身を起こして薬を受け取ると、一瞬だけ逡巡して、少々緑がかったそれを一気に口に含んだ。瞬間、チャイルの表情があまりの苦味にゆがむ。
「うわっ、苦いよぉ……」
「良薬は口に苦しと言うでしょ。男の子なんだからそれぐらい我慢しなさい!」
 チャイルは渋々うなづいて、受け取った水を二、三口飲んだ。マーザは小さく息をつくと、エプロンを軽く払ってチャイルの頭をなでる。
「お母さんはちょっと出かけて来ますからね。静かに寝てるのよ」
 チャイルは今度は素直にうなづいて、マーザにコップを渡すと再びベッドに横になった。
 コップを台所に下げてから、麻で編まれた鞄を手に持って、マーザは家の外に出た。扉を閉めるときに、チャイルの咳き込む声が聞こえる。
 家を空けることに少し心配になりながらも、マーザは扉を閉め、鍵をかけた。そして、今まで我慢していた溜め息を一気に吐き出す。
 それにしても、おかしい。
 ここ一ヶ月、薬はずっと与え続けていた。普通ならもうとっくに良くなってていいはずだ。改善の兆しが見えてきてもいい。でも。
「それどころか、むしろ悪くなってるような気がするわ……」
 薬も与えている。栄養も出来るだけ摂らせているし、安静にだってさせている。
 一体、何が悪いのだろう。
 マーザは不思議に思いながら、商店街の方へと足を踏み出した。

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