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■当らない占い師 シナリオ1〜母と薬〜■ □side-B□

「あぁ〜ら、マーザさんじゃないの」
 ざわめく商店街を歩いていたマーザの耳に飛び込んだのは、耳につく高飛車な声だった。
 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには、全身をこれでもかというほどに着飾ったきらびやかな女性が、ふわふわした扇子で優雅に自分を扇いでいた。
「あら、イッドバータさん」
 商店街にはまるで似合わないその姿に、マーザは礼儀上その名前を呼んで軽く会釈した。
 イッドバータは親しげにこちらに歩み寄ってくると、重たそうな頭をかしげる。
「息子さんの具合はどう?」
「それが、なかなか治らないんですよ……」
 マーザが今も苦しんで寝込んでいるチャイルを思って表情を翳らせると、イッドバータは大げさに眉をひそめて、扇子で口元を隠した。
「あっら〜、それはお気の毒ねぇ……そうだわ」
 何かを思いついたように手を打ったイッドバータを、マーザはいぶかしげに見上げる。
「あなたも占ってもらうといいわ!」
 大発見をしたかのように言い切ったイッドバータに、マーザは一瞬呆気にとられた。
「……は?」
「すぐそこで店を開いてる占い師さんねぇ、ここだけの話……結構当るっていう評判よ」
 最後のほうは声を潜めてそう言ったイッドバータは、名案とでも思っているのか、にっこりと微笑んでいる。
「占い……?」
 思わず口に出してそう呟いたマーザに、イッドバータはうなづきながら得意げに笑う。
「えぇ、そうよ。わたくしも占ってもらいましたの。そしたらねぇ…」
 わざと勿体つけて、イッドバータは少し間を取った。
「『数年のうちに光り輝くものが手に入る』ですって! きっとお金か宝石のことよ、楽しみだわぁ」
 イッドバータはうっとりとした表情で踵を返したが、ふと思い出したように振り返って、扇子で口元を覆う。
「あ、そうそう。よく当たる分ねぇ、なかなかのお値段なのよ。あなたにはちょっと無理だったかしらねぇ」
 イッドバータは意地悪そうにそう言うと、高笑いを響かせながら去っていった。
 マーザはまるで嵐のようだったイッドバータを見送ると、はっと我に返った。
「ムキーッ! ムキキッ!! なぁ〜にが『お金や宝石』よ!! 占いなんて当たるもんですかっ!!」 
 悔しさの余り地団駄を踏みながらそう叫ぶ。結局は自分の幸福を自慢したいだけではないか。大体、占いなんて当たるわけがない。
 ひとしきり暴れて、ぜえぜえとあらぶる息を整えながら、マーザはイッドバータが去っていったほうとは反対の――街外れの方をきっと睨みつける。
「とは言え……ちょっと悔しいわ!」
 マーザは意を決すると、街外れの方へ歩を進めた。

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