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■当らない占い師 シナリオ1〜母と薬〜■ □side-D□

「お、いたいた」
 若い青年に変装した俺は、商店街の通りでさっきのおばさんに追いついた。感づかれない程度に距離を詰めて、そっと後をつける。
 おばさんは町の郊外に向かっているようだった。俺の店とは反対方向で、道を進むにつれ民家が減っていき、どんどん寂れていく。
 しばらく歩くと、ひときわ小さな民家におばさんが入っていった。どうやら、ここが彼女の家らしい。
 俺はそっと窓から中を覗いた。角度は違えど、そこに見えるのはさっきの占いで見た家の中と一緒だった。
 おばさんはベッドを覗き込んで、乱れた布団を直しながら呟いた。
「寝てるみたいね……」
 その顔はここからじゃよく見えないが、きっと複雑な母親の顔だったのだと思う。
 おばさんはベッドに寝ている子供をしばらく見つめてから階段を上っていった。
 さて、今のうちだな。
 俺はこっそり家の中に入ろうと思い、しかし今の自分の姿を見て思いとどまった。
「このまま入るわけにはいかないな…猫にでも化けておくか」
 そう呟いて、俺は自身に向け簡単な術をかけた。ふっと視線が低くなり、俺は自分の姿が猫になったのを、近くにあった水溜りを覗き込んで確認した。白い猫。よし、これで大丈夫。この程度の術なら問題ないのだ。
 さて、猫に扮した俺は、そっと扉を開けて中に入った。まずは子供の状態を見ようと、ベッド脇に置いてあった椅子に飛び乗る。
 ベッドを覗き込むと、子供が苦しそうに息を弾ませていた。誰の目に見ても病気だとわかるだろう。さっきの占いの通り、どうやら重病のようだ。
 薬は飲んでるのか? 調べてみよう。
 俺は椅子の上から家の中を見回した。手近なところに棚があったので、俺は飛び移って薬らしきものを探した。
 あった。しかし、ぶら下がってるような今の体制じゃよく見えない。
 俺は一つを口にくわえて、床に飛び降りた。
 ぽとりと落として、薬を見る。
「!! なんじゃこりゃ!?」
 俺は驚きのあまり思わずそう口に出していた。
「…期限切れ? それにカビっぽいぞ…」
 これじゃあ治らないだろうなぁ、と俺は一人ごちる。ちらと母親の居る上を見やって、俺は再び緑がかった薬に視線を落とした。
「う〜ん……」
 俺は唸って、どうしようか考える。
 このままこのカビた薬を与え続けていたら、占いの結果通り、息子は死んでしまうだろう。
 そうなったら、賭けは俺の勝ちだ。でも……
 悩んだのは一瞬だった。俺は決心して、自分に向けてうなづく。
「よし。悪いけど全部捨てさせてもらうとするか」
 確か隣に井戸があったはずだ。そこに捨ててしまおう。
 俺はもう二、三袋を棚から落とすと、それらを口にくわえた。
「よいしょ…ぐぇっ」
 これはひどいぞ…急げ!!
 予想外に重たい袋をくわえ、俺は必死に外の井戸までダッシュする。井戸にしがみつきながらよじ登って、袋を落とす。
「ぐぅぇ〜…いや〜、なかなかキツい……」
 人間の姿なら楽なのに、そうもいかないから辛い。
「よし、もう一回行くぞ」
 俺は口に出して覚悟を決めて、再び家の中に進入した。棚からさっきと同じように薬の袋を落として、気合を入れる。
「よぉ〜し、もう一度……ふんっ!!」
 と、俺が薬を加えた時だ。
 後ろから階段を下りてくる足音がした。これは…
「ん? そこの猫、何してるっ!!」
 まずい。たまたま何かの用事で降りてきたのだろう。俺を見つけたおばさんが、怒りの形相で階段を下りてくる。
「あっ、この猫、大事な薬をくわえているわ!!」
 大事じゃないんだって!
 俺は心の中でそうつっこみ、一目散にドアに向かって駆け出した。
「ずうずうしい猫だわ。逃がさないよ、このドラ猫ッ!!」
 おばさんも俺を放っておくわけはなく、物凄い顔で俺を追いかけてくる。
 捕まってたまるかいっ!
 俺は意外に素早いおばさんから逃げるために、すぐ横手に広がる林へと飛び込んだ。

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