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■白鹿亭冒険記譚■ □【蒼空の雫】冒険譚〜鉱山モンスター退治依頼 side-C□

「それは大変だったな」
 なんとかその日の夕方に白鹿亭に帰りついた面々がマスターに事の顛末を語って聞かせると、マスターは何でもないかのようにさらりとそう言ってのけた。
「親父さん、それはちょっと冷たいんじゃないか……?」
 怨みがましくマスターを睨む一行に、マスターはどこ吹く風というようにグラスを磨く。
「その依頼を選んだのはお前たちだろうが。ま、ドラゴンと戦って生きて帰ってこれただけでも良かったと思え」
 確かにマスターの言うとおりである。が、そう易々と納得できるものではない。
「ったく、やってらんないわよ……アースドラゴン倒したのに、たかだか危険手当分しか報酬上乗せされないし、せっかく見つけた遺跡は土砂崩れで調査すらできないし……大損だわ」
 そう愚痴を言うアニスを筆頭に、皆がちまちまエールを飲みながらぼやいていると、宿の娘さんが笑顔でキッチンから顔をのぞかせた。
「じゃあ、私からのご褒美で、今日は揚げじゃがサービスしてあげるわ」
「やった! さすが娘さん!」
 ころっと機嫌を直した【蒼空の雫】の面々をマスターは呆れた目で見た。まだ湯気を上げている揚げたての揚げじゃがを取り合う面々を横目で見ながら、マスターは娘さんに小声で諌める。
「おい、あまり甘やかすな……つけあがる」
「あら、いいじゃない。ちなみに揚げじゃがのお代は、ばっちりお父さんのお財布から抜いておくからね♪」
「なっ、お前…っ!」
 天使のようにふわりと微笑んでキッチンに消えていった娘さんに、マスターは抗議しかけて、しかし何も言えなかった。
「親父さん、因果応報って言うのよ、そーゆーの」
 ジョッキ片手にアニスがにやにやと笑って揶揄した。親父さんは憮然とした顔で台帳を取り出すと、カリカリと書きこみながらぼそっと呟く。
「エールの一杯ぐらいなら見逃そうと思ったが、アニスの分だけツケな」
「なっ! 卑怯だわ! このケチ親父!!」
「あはははは!」
 アニスとマスターのやりとりに他のメンバーは腹を抱えて笑った。大変な依頼の後ほど、揚げじゃがとエールは美味い。そんなことを実感しながら、白鹿亭の夜は今日も騒がしく更けていくのだった。

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