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■白鹿亭冒険記譚■ □【蒼空の雫】冒険譚〜よき空の巡りに鐘が鳴る side-C□

「港だ! 港に違いない!」
「いや、倉庫群のどこかじゃないか!?」
「探せ、探すんだ!」
 ベルフォートの合図を受けて、広場に集まっていた冒険者たちは一斉にそれぞれの思うところへ駆けだした。出遅れてしまった【蒼空の雫】一行は、広場の出口に殺到する冒険者たちにもみくちゃにされながらなんとか言葉を交わしあった。
「負けてらんないわよ、わたしのエールのために!」
「でもどうするんです!? ベルフォート氏が荷物を隠した場所なんて……」
 やみくもに町中を走り回ったところで荷物は見つからない。かといって虱潰しに探していては、ほかの冒険者にみすみすくれてやっているようなものだ。
「こっちだ、ついてこい!」
 当たりをつけかねて逡巡していた一行の横を、先ほどの青年が駆けて行った。通りすがりざまに、一番小柄なクロをひょいと抱えていく。クロは青年の手から逃れようと必死で暴れたが、そのか細く非力な腕ではびくともしなかった。
「クロ!」
「くそっ、追うぞ!」
 残りの一行は青年と抱えられたクロを追って駆けだした。入り組んだ細い路地を、青年はためらうことなく進んでゆく。先ほどのベルフォートに対する発言といい、青年は相当ウィーザに詳しいようだ。
「おい、どういうつもりだ!?」
 ようやく青年に追いついたライハが怒鳴ると、青年は速度を緩めることなく、ニヤリと笑みを浮かべた。
「なに、あんたらに協力しようと思ったのさ」
「そんな勝手な……」
「どうせ、荷物がどこにあるか当てもついてないんだろ?」
 図星をつかれたライハは、いささかむっとして青年に尋ねた。
「あんたには当てがあるのか?」
「あぁ。あいつが大切な物を置いておく場所なんてひとつしかない」
 細い路地の先に見覚えのある道が見えた。あれは確か、港の入り口に面した通りだ。
「警備がもっとも厳重で、自分の目が届く場所――ベルフォートの屋敷だ」
 青年がそう言った矢先、目の前にナイフを持った男が五人、立ちふさがった。冒険者くずれのごろつき、ならず者といった風体だ。ライハと青年は足を止め、無言でごろつきたちを睨みつけた。
「悪いが、ここは通すなって言われてんだ」
「痛い目見たくなけりゃ、とっととママのところに帰んなぁ」
 ゲラゲラと下品に笑うごろつきたちに、ライハは不快げに眉をひそめた。青年が舌打ちする。
「ベルフォートの野郎だな…」
 忌々しげに呟いて、青年はクロを地面に下ろした。クロは手が離されるやいなや、後ろに追いついたファルのところまでわたわたと走って、その足にすがるように青年から隠れた。
 ライハの隣まで悠然と歩いてきたエリータが、にぃっと不敵に唇の端をつり上げた。
「悪いけど、通るなって言われたら通りたくなっちゃうのよねぇ」
「ママのところに帰る方が痛い目見るしな」
 二人は軽口を叩きながら、それぞれ得物の柄に手をかけた。
「さぁ、そっちこそ痛い目見ないうちにさっさとどきなさい。おねーさん手加減しないわよ」
 そう言ってエリータがごろつきたちにウインクすると、今まで下卑た笑みを浮かべていた彼らの顔が怒りでかっと赤くなった。
「やっちまえ!」
 一人が怒鳴り、ごろつきたちは一斉にナイフを構えて二人に向かってきた。エリータは大剣をくるんでいた布を派手にはぎ取って後ろに投げ飛ばすと、喜々としてごろつきたちに突っ込んでいった。彼女は手近なごろつきのナイフを易々と受け止めはじき返すと、そこから切り返して剣の腹でごろつきの顔面を殴打した。吹っ飛んだごろつきの横をすり抜けてきた次の相手のナイフを、ライハが抜刀したカタナで受け止める。
「サンキュ、ライハ!」
 エリータが目線だけ振り返ってライハに笑いかけた。ライハは無言でそれに応えると、ナイフをはじいてごろつきのこめかみにカタナの柄を叩き込んだ。
「大空を駆る熱き翼よ、今、我にその姿を示せ。“火鳥の旋風”!」
 後方でローゼルが呪文を紬ぎ、サファイアロッドをひとなぎした。ロッドの先端から焼けつくような熱風が生じ、うねりを伴ってごろつきたちを呑み込んだ。
「あっち! あっちい!」
 灼熱の大気にひるんだ残りのごろつきを、エリータは鳩尾に膝を叩き込んで地に伏せ、ライハはうなじを殴打し昏倒させ、残りの一人はアニスが投擲用ナイフで壁に縫い止めた。
 戦闘の終わった路地は、一気にしんと静まり返った。
「よ、お見事!」
 パチパチと手を叩いた青年を、ライハはげんなりとした目で見やった。
「お前、まさかこうなることが分かってて、俺たちを誘導したんじゃないだろうな…」
「まっさかー。ほら、行くぞ。屋敷はもうすぐだ」
 軽く受け流して走りだした青年を、一行は釈然としない気持ちのまま追った。
 ごろつきたちの妨害で思わぬタイムロスを食ったが、青年の言う通り屋敷は目と鼻の先だった。彼らは一気に通りを駆け抜け、屋敷の門に手をかけた。
 ピィ――。
 ライハが門に手を触れた瞬間、屋敷の玄関から高らかに試合終了の笛が鳴り響いた。

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