■白鹿亭冒険記譚■ □【蒼空の雫】冒険譚〜朝焼けの祝福 side-F□
今度こそ、しくじらない。<鷹>は決意を胸に秘め、<東の賢者>の居室にもぐり込んだ。<賢者>は娘を部屋へ帰したあと、再び読みかけの本に没頭していた。その背中に忍び寄り、抜き身の<鷹狩(ホーキング)>を握りしめ、彼女は<賢者>の首に狙いを定めた。
その時、見覚えのある光の蝶が<賢者>の肩に舞い降りた。それに気づいた<賢者>が勢いよく<鷹>を振り返る。昔の自分なら、絶対にためらわなかった一瞬。しかし、<鷹>の体は電気が走り抜けたかのように固まってしまった。
「ダメです、アニス!」
心の奥底で密かに焦がれていた声が、彼女の名を呼んだ。
「……ファル」
勢いよく扉を開けて飛び込んできたファルと仲間たちを、<鷹>――アニスはひと呼吸置いてから振り返った。役目を果たした光の蝶が、賢者の肩からローゼルの元に舞い戻る。蝶は二、三度羽ばたいたかと思うと、光の粒子になってサラサラと消えた。
「ローゼル、あんたが邪魔したんだね」
「<東の賢者>に忠告しただけです。間に合ってよかった」
いつもと変わらない平坦なローゼルの態度に、今は心底腹が立った。
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