■通りにて■
どうしよう。
とある商店街の通りの一角にある、とある店。
その店のショーウィンドウの前で僕は立ち止まっていた。
片手には傘、肩にはショルダーバッグ、羽織っているのはモッズコート。
そんな出で立ちで、僕は立っていた。
「どの子もかわいいでしょう?」
ドアが開け放された入口まで、奥のレジにいた女性の店員さんがさりげない感じで出てきて僕に声をかけた。
僕は恥ずかしさから、うまく言葉を返せずに、挙動不審な感じになってしまう。
「この子なんて、くりっとしたお目目がつぶらで可愛いですよねぇ、おすすめですよ」
と、店員さんはショーウィンドウから、僕がずっと見ていたクマのぬいぐるみを取り出して僕に見せた。
どうしよう。可愛いテディベアが好きな男だと思われてたら。
そんな事になっていたら、僕は恥ずかしすぎてしばらくこの付近を歩けなくなってしまう。
「プレゼントですか?」
店員さんがにこやかに尋ねたので、僕はぶんぶんと首を縦に振った。
よかった。誤解されてなかった。
渡されたテディベアを受け取ると、柔らかいふわりとした感触が手のひらに伝わってきた。
僕の大切なあの子に似ている、愛らしいテディベア。
帰り道、傘と、ショルダーバッグと、モッズコートと。
通りを歩く僕の手には、一つ紙袋が増えていた。
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