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■終わりが来るその日まで■

「大体、君は私のことをどう思っているのだね」
 とある日の午後のこと。ガルバディアの喫茶店で茶飲み友達から唐突にそんなことを言われ、パウリナ・パウリィは大きな赤い瞳をぱちくりさせた。
 どう、と言われても。と彼女は目の前の人物をまじまじと見た。ひょんなことから知り合って茶飲み友達となったこの男。名はトートといい、まだ幼い弟子と探偵業を営んでいる。もっぱら道楽との噂だが、パウリナはその噂はおそらく真実だろう、と思っていた。いかんせん食えないやつなのだ。普段部下どころか上司に対してさえ辛辣な口をきくパウリナが唯一口で敵わない相手だった。
 自分がこの胡散臭い、得体の知れない男のことをどう思っているか。そんなこと考えたこともなかった。
 そもそもパウリナにとって、恋なんて最も縁遠いものだった。ひたすら好奇心の赴くままに研究する日々の中で、異性を意識する暇なんてなかった。それも、あの忌々しい事故をきっかけに、“こんな身体”になってしまったのだから――自らが普通の人間ではなく、人々から忌み嫌われる魔人となってしまったことをきっかけに、パウリナはそういった当たり前の幸せを享受してはいけないような、そんな想いを抱いていたのだ。もちろん目の前のこの男にも、自らが魔人であることは言っていない。
 どう思っているか。今まで意識したことはなかったのに、意識し出した途端に頬が熱くなるのを感じた。待て待て騙されているぞ、と自らにブレーキをかける。とかくこの道楽探偵、女癖が悪いのだ。今までに色んな女性に手を出したのをパウリナ自身見てきたし、それをからかいの種とすることもあった。この男の言うことを鵜呑みにしてはいけない。どうせまたからかっているのだ。
 パウリナは冷めた紅茶をすすって気持ちを落ち着かせた。トートはこの短い間にひとり百面相していた彼女を見てクツクツ笑っている。その余裕の態度にむっとして、彼女は問い返した。
「そういうあんたこそどうなのよ」
 トートは彼女のように焦ることもなく、そうさね、と肘をついて組んだ手に形のいい顎を載せた。
「私の最期を看取るのは君であって欲しいと。そう願う程度には焦がれているよ」
 なんて縁起の悪い例えだ。しかし、そう呟いた彼の表情にいつものからかいの色がないのを見て、パウリナはパチパチと目を瞬かせた。
 なんにでも終わりは来る。それはわかっている。トートにも、自分にも。なにかと危険な目に合う道楽探偵は長生き出来なさそうね、なんて悪態が頭に浮かんだ。縁起が悪い。彼と会ってお茶を飲むこの関係にだって、いつかは終わりが来るのだろう。自分の正体がバレたら、きっとこうして向かい合うこともなくなるのだ。
 でも。と、パウリナは目を伏せた。でも、あともう少しだけ。
 そんな言い訳めいたことを心の中で呟いて、パウリナは顔を上げた。
「バーカ。あんたがドジ踏んで死にかける前に、助けに行くから安心しなさい、道楽探偵」
 パウリナの言葉に、トートはそうかい、と呟いて苦笑したのだった。

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