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■ぼくらの基地はヨシの中■  □side-B□

 小グラの横の公住をぬけてハヤトが向かった先は、野原だった。それもただの野原じゃない。そこには、背が高くて、先っぽにふわふわしたものがついてる植物――ヨシが、見わたす限り一面にみっしりと生えていたのだ。
「ついたぞ」
 ハヤトがぼくらにそう告げた。ぼくらは思わず、何か珍しいものを探してあたりを見回す。でも、ここには明らかに草しかない。
「ハヤト……ここ、ヨシしかないけど」
「ヨシ? アキ、お前バカだな。これはアシだろ」
 まゆをよせてハヤトが言った。でもぼくは小さいとき、おばあちゃんに、これはヨシっていうんだよ、って教えてもらったんだ。まちがいない。
 ぼくとハヤトが言葉もなく目だけで対抗していると、かたわらで見ていたイクヤが、あきれたようにため息をついた。
「ヨシでもアシでもススキモドキでも、なんでもいいよ……で、これがなんだって?」
 イクヤが聞くと、ハヤトはころっと機嫌を直して、こそこそと手招きをした。そして周りに誰もいないことを確認すると、ぼくらより背の高いヨシの間にむりやり入って行く。
 ぼくらがわけも分からずその場に立ちつくしていると、ヨシの間からハヤトの声がした。
「なにしてんだよー、だれか来ないうちに入ってこいよ!」
 ぼくは思わず、イクヤと視線を交わした。
――この中に?
 イクヤの目は、確かにぼくにそう聞いた。
 ぼくはごくりとつばを飲みこむと、意を決して、ハヤトが入って行ったヨシの間に歩を進めた。覚悟していた葉っぱの抵抗はいっしゅんで、ぼくが目を開けると、そこはヨシがふみ固められた、ひとつのけもの道になっていた。
「うわぁ……」
 ぼくは思わず声をあげた。まさか、ヨシの間に道があるなんて!
 ぼくの後から入ってきたイクヤも、びっくりして目を丸くしている。
「へへっ、どうだ?」
 道の先で満足げにハヤトが笑った。ぼくはすっかり興奮して、ハヤトにかけ寄る。
「すごい、すごいよハヤト! これが秘密!?」
「しーっ、声がでかい! 外歩いてる人にばれるだろ!」
 ハヤトが口に人差し指を当てて注意をした。ぼくはあわてて口をふさぐ。
 後ろから冷静に歩いてきたイクヤが、先をうながすようにハヤトを見た。
 ハヤトはぼくらに手招きをして、ヨシの間の道を進んでいく。ぼくらはその後を追った。
 道は、けっこう複雑みたいだった。左右に分かれているところもあったし、ぐねっとしているところもあって、方向がわからなくなる。
 少し歩いて着いたのは、ヨシがふみ固められてできた、小さな丸い空間だった。
「これってもしかして、部屋?」
「ピンポーン、大正解! さ、座れよ」
 言いながらハヤトは自分も座った。ぼくらもおそるおそる座りこむ。
「さて、そろそろお前らの質問に答えてやるか」
 ハヤトが意地の悪い顔でにやにやと笑いながらそう言ったので、ぼくとイクヤは少しむっとした。
「いいから早く教えろよ」
「悪い悪い。ここはな、おれの秘密基地なんだ」
 ひみつきち。
 ぼくはその言葉にきらきらと目をかがやかせた。だって……ねぇ。男ならだれだって一回は夢に見るでしょ?
 そんなぼくの気持ちを読んだのか、ハヤトは得意げに笑って先を続ける。
「で、せっかくだからな。お前らも特別に仲間に入れてやろうと思って、今日こうやって招待したわけだ」
「ほんとに!? ほんとにいいの!?」
「じゃなきゃ呼ばねぇよ」
 ハヤトの態度はすっごくえらそうだけど、今はそんなこと、少しも気にならない。
「やったぁ、ありがとうハヤト!」
 ぼくはうれしさのあまりハヤトに飛びついた。ハヤトはあわててぼくを引きはがす。
「ばか、気持ち悪いって!」
「えへへ、ごめん」
 ぼくはあやまったが、顔はまだにやけていた。だって、秘密基地だなんて、すっごくわくわくするじゃない!
 となりを見ると、クールなイクヤも楽しそうに笑っていた。なにも言わないけど、きっと彼もうれしいに違いない。
「いいな、これは、おれらだけの秘密だからな! だれにも言うなよ!」
 改めて念を押すハヤトに、ぼくとイクヤはうなづいた。
「わかってるって!」
「ヨロシク、ハヤト」
 長いはずの日は、いつの間にかすっかりかたむいていた。空が赤く染まって、工場から六時のサイレンが鳴りひびいた時、ぼくらは笑い合って、約束のしるしに、たがいにこぶしをぶつけ合った。

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