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■ぼくらの基地はヨシの中■  □side-D□

 そんな風にして季節は過ぎ、夕方には上着がないと寒い季節になった。ぼくはいったん家に帰ってかばんをおくと、上着のパーカーをはおって、かけ足で家を出た。とびらが閉まる時に、母さんがぼくを呼びとめたけど、聞こえないふりをした。
 最近ぼくらは、それぞれがばらばらに秘密基地に行くようになっていた。その方が固まっていくより見つからないだろう、というハヤトの意見だった。
 だからぼくはまっすぐ秘密基地へ向かった。今日はなにをしようか。近くのだがし屋でだがしを買って、みんなで食べようか。それとも、また新しい部屋でも作ろうか……考えるだけで胸がおどった。
 期待に胸をふくらませながら、野原に続く角を曲がったその時。
「…にすんだよ、やめろよっ!」
 そんなハヤトのせっぱつまったどなり声が聞こえて、ぼくはあわてて野原まで走った。耳に届くのは、がさがさっ、と乱暴に草がゆれてこすれる音に、言葉になってないどなり声――その中にはイクヤの声もある。ぼくの心は一気に不安とあせりでいっぱいになった。
「ハヤト、イクヤ!」
 名前を呼びながらいきおいよく野原横の小道に飛びこむと、そこには立ったまま泣きじゃくっているハヤトと、背の高い男の子と組み合っているイクヤがいた。
「! アキ!」
 イクヤがぼくに気付いて名前を呼ぶ。そのわずかなすきに、相手にほほを思い切りなぐられて、イクヤは地べたに転がった。
「いって……」
「イクヤ!」
 ほっぺたを押えて起き上がったイクヤに、ぼくはかけ寄った。どれだけの力でなぐられたのか、イクヤのほっぺたは真っ赤にはれあがっていた。
「なんだ、アキじゃねぇか」
 頭の上からそう呼ばれて、ぼくはびくりと体をこわばらせた。
「……ヒロ先輩」
 イクヤをなぐり飛ばしたのは、ぼくらより一つ年上のヒロ先輩だった。その後ろには先輩の友達が何人か固まってこっちを見ている。先輩はとても力が強いことで有名で、ぼくらにとって、さからえない人の一人だった。
 おどろきと恐怖がごちゃまぜになったぼくは、それ以上なにも言えないでいた。先輩は感心したように、ゆっくりとヨシが生えてる野原をながめまわす。
「こんなところに秘密基地とは、お前ら、よく考えたよ。でもな、お前ら最近調子乗りすぎ。声がここまで聞こえてたぜ」
 ヒロ先輩はそう言いながら笑った。笑ってるけど、それが余計、ぼくらを威圧する。
「――今日からここは、おれらの基地だ」
「なっ……!」
 ぼくはびっくりして思わず声をあげた。だって、そんなのってない!
 するとヒロ先輩は、ぼくをギッとにらみつけると、ぼくの胸ぐらをつかんでむりやり立たせた。
「なんだよ、文句あるのか?」
「……っ!」
 言いたいことはいっぱいあるのに、全部のどのおくにつっかえて出てこない。
 ぼくがなにも言えずに口をぱくぱくさせていると、今までだまって立っていたハヤトが大声をあげながら、急に先輩につかみかかった。
「うわっ!?」
「ここはおれらの基地だっ! 出てけ、出てけっ!」
 そうどなりながら、むちゃくちゃにヒロ先輩を叩く。ヒロ先輩はぼくから手を放すと、
「ってぇな!」
と怒鳴って、ハヤトをいきおいよく突き飛ばした。ハヤトはどさっと音を立てて地面にしりもちをつく。
「くそっ……早くどっか行け! 入ってきたらゆるさないからな!」
 先輩はそうぼくらに言うと、友達といっしょにヨシの間に消えて行った。
「ちくしょう……ちっくしょう……!」
 ぼくとイクヤがそばによると、ハヤトは地面に座りこんだまま、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。

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