■ぼくらの基地はヨシの中■ □side-G□
「アキくん、今帰りなの?」
その日の放課後、ぼくが家に帰ろうと、ゲタ箱の前で上ぐつを脱いだ時だ。ぼくはその聞き覚えのある声に、上ぐつを持って振り返る。
「ミワ」
ぼくの後ろから声をかけたのは、クラスメートのミワだった。ミワは五年生男子の間で、かわいいと評判の女の子。けど、ぼくは家が近所で、小さいときからよく遊んでいたから、あまり実感がわかない。
「うん、今帰りだよ。ミワは? 今日は部活じゃないの?」
ミワは家の事情もあり、吹奏楽部に所属している。同じようにくつをぬぎながら、ミワはうなづいた。
「今日はお店の手伝いがあるから休むの」
「そっか」
会話をしながらくつを取り替えて、ゲタ箱の扉を閉めた時、僕らのゲタ箱の向こう側……つまり、六年生のゲタ箱のところから、大声で喋るヒロ先輩たちの声が聞こえてきた。
「幽霊なんているわけないだろ!」
「で、でも、何人もの人が見たって……」
この弱々しい声は、いつも周りにくっついてる人だな。ぼくはミワに静かに、と手振りで合図すると、ゲタ箱の向こうに耳を澄ました。
「バカ、そんなの見間違いだ!」
「で、でも、もし本当だったら……」
「くそっ、わかったよ! 今日はダメだから……明日だ、明日の夜、確かめに行くぞ!」
「そ、そんなぁ……」
どたばたとくつをはいて出て行くヒロ先輩たちを見送って、ぼくはよし! と心の中でガッツポーズをとった。
どうやら、先輩たちのところまで、あのうわさはしっかりと広まったようだ。しかも、明日、そのうわさの真相を確かめに来るらしい。
「今の、六年のヒロ先輩でしょう? うちの店でもさんざん騒いでいくから迷惑なのよね」
ため息混じりにミワが言った。ぼくはその何気ない一言に、頭の中でまた、一つアイデアができあがる音を聞いた。
「ねぇ、ミワの家って、確か楽器屋さんだよね?」
「うん、そうよ。なあに、今さら」
「ちょっとさ、頼みたいことがあるんだけど……」
不思議そうにまゆを寄せるミワに、ぼくは、ぎこちなく片目をつぶってみせた。
その日の晩、ぼくは、ハヤトとイクヤを家に呼んで、最後の作戦会議をした。
今までに準備したものを確認し、手順や段取りも確認する。それと、今日思いついたことも追加で説明しておいた。
これで事前準備は整った。
あとは、明日の本番を残すのみだ。
「よし、明日は先輩たちを“ぎゃふん”と言わせるぞ!」
微妙に古いハヤトの言葉に思わず笑いながら、ぼくらは、はじめて秘密基地で約束した時のように、たがいにこぶしをぶつけ合った。
さあ、作戦開始だ!
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