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■ぼくらの基地はヨシの中■  □side-I□

「やったぁ!」
 先輩たちの気配が完全に遠ざかってから、ぼくらは隠れるためにかぶっていた黒い布から飛び出して、お互いにハイタッチを交わした。
「へへっ、すげぇ! 面白いぐらいにうまく行ったな!」
 ハヤトが晴れ晴れとした笑顔でそう言ったので、ぼくも笑顔でうなづいた。
「しっかしアキ、よくこんな作戦思いついたな」
 竹ひごの先にくっついた蓄光繊維のかたまりをぶらぶらさせながら、イクヤが感心したようにそう言ったので、ぼくは照れかくしに笑ってみせた。
 今回の作戦、通称“肝試し作戦”は、ぼくがハヤトとけんかした夜にテレビ番組を見て思いついた作戦で、全体を簡単に説明するとこういうことになる。
 まず、先輩たちにも届くように、それとなくこわいうわさを流す。これは、見栄っぱりな先輩をヨシ野原におびき出すためのエサであり、あとで作戦をより成功させるための種みたいなもの。
 で、うわさ話で恐怖感を溜めこんできた先輩たちを、ぼくらは肝試しの要領でおどかす。
 これが“肝試し作戦”の大まかな内容だ。
 作戦で使った小道具は、蓄光樹脂の糸で作った“火の玉”と、身を隠すための黒い布、爆竹花火、そして……
「それにしても、よくこんなもん借りれたよな」
 と、ハヤトが手に持ってるホースみたいな筒状のもの。
 これがあの不気味な音の正体で、あまり有名じゃないんだけど、“サウンドホーン”っていう楽器だ。これを円を描くようにぶんぶん振りまわすと、あの独特の高い音が鳴るってわけ。
 ぼくが昨日の放課後ミワに頼んだのは、このサウンドホーンを貸してっていうことだったんだ。
「とにかく、作戦は成功して、基地も無事取り戻せた。おれたちの勝ちだ!」


「そうはいくかよ」
 聴きなれた声にぼくらがびくりとしてふりむくと、かつてないほどこわい顔をしたヒロ先輩が、ぼくらを蛇のような目でにらみつけていた。
「ひ、ヒロ先輩……」
「やっぱりお前らのしわざだったんだな、ビビらせやがって……タダじゃすまさねぇぞ」
 ぱきっ、ぽきっと指の関節を鳴らしながらこっちに向かって歩いてくるヒロ先輩に、ぼくらは背中を冷たい汗が伝っていくのを感じた。先輩がこっちに向かってくるのと同じぐらい、ぼくらはじりじりと後ずさる。
「せ、先輩、少し落ち着いて……」
「いられるか! くらえ!」
「うわぁっ!」
 先輩がくりだしたこぶしをあわてて避けた時、ぼくの足元に置かれていた、“火の玉”を熱するのに使ったろうそくが倒れて、そばに無造作に置かれた黒い布に引火した!
「げ、マズイ!」
 火は思ったよりもすぐに布中に広がって、密生しているヨシにも飛び火していく。
「ダメだ、消せない!」
「お、おれは知らないぞ!」
 うろたえたような顔で、先輩はそう言い捨てると、逃げるように走り去って行った。
「おれらも逃げるぞ!」
 近隣の住民が通報したのか、消防車のけたたましいサイレンが鳴り響く。
 ぼくらはあわててその場を離れた。途中、少し名残おしくなって、僕は燃え上がるヨシ野原を振り返る。
「アキ、急げよ、見つかるぞ!」
 ハヤトにせかされて、ぼくは後ろ髪引かれながらも、炎で赤く染まるヨシ野原を後にした。

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