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■みんなで挑戦100のお題!■  □no.62:悪友□

 僕には一人、悪友がいる。
 悪悪っていっても、それは周りから見た評価ってだけで、僕は全然悪って思ってないんだけど。
 ともかく僕はそいつと、学校帰りに街中を歩いていた。
「……あのさ、どっか寄るトコでもあるのか?」
「なんだよ、朝(あさ)。用がなきゃ来ちゃいけねぇのかよ」
「…別に、そういうわけじゃないけど…こんな時間だよ、夕(ゆう)」
 そうそう。僕の名前は朝也(あさや)。僕の一歩前を行く僕の悪友の名前は夕都(ゆうと)。お互いに面倒なので、名前の一番始めの文字で呼び合っている。丁度、今みたいな感じで。
 ともかく、僕と夕は、街中を歩いていたのだ。
 夜の八時過ぎに。
「こんな時間って、まだ八時だぜ。夜は始まったばっかりさ!」
「…僕、ご飯食べたいんだけど」
「どっか寄るか?」
「…いいよ、お金勿体無いし」
 僕が断ると、夕は納得行かないようにしぶしぶ頷いて、再び前を見て歩き出した。僕も黙ってその後ろについて行く。母さんになんて言い訳しようか考えながら。
「おっ!!」
 突然、夕が声を上げた。
「何、どうしたの?」
「財布発見!」
 は?
 先にだかだか走っていった夕の後を追う。
 追いついてみると、夕は道にしゃがんで、落ちていた財布の中身を確認していた。
「一…二…うわっ、三万も入ってやがるぜ!金持ちだな、こいつ」
「誰のか分かる?」
「朝、お前ってヤツはお人よしだな。こういうのはいただくに限る!」
「ダメだよ、そんな大金。警察に届けよう」
「これで飯も食えるぞ」
「…そういう問題じゃないだろ」
 溜め息をつく僕。僕の制止なんてきかない夕は、嬉々として財布を鞄の中に入れていた。

 ガシャンッ!!

 そこに、路地の奥から派手な物音が響いた。鉄のものが派手にぶつかりあう音のようだ。夕が眉をしかめて、音の方向を見やる。
「朝、何だと思う?」
「聞くまでもないと思うけど」
 僕がそう答えると、夕はさらに機嫌悪そうな顔をして立ち上がった。
「行くぜ、付き合いな」
「…やだよ。一人で行ってくれば」
「じゃ、そーする」
 投げやりに言った僕の言葉をマトモに受け取って、夕は一人で路地の方へ走っていった。僕も呆れてその後を追う。
 路地の奥、突き当たりで行なわれていたのは、俗に言うカツアゲだった。
 二、三人の不良が、一人の大人しそうな少年をカモにしていたらしい。さっきの金属音は、少年が脇に積んであった空のドラム缶にぶつかって、ドラム缶が倒れた音だったみたいだ。
 なんとか起き上がった少年を、不良の一人が蹴ろうとする。
 そこに、割り込むのはもちろん夕だ。
「待ちな!そこの程度の低いヤンキーめ!」
 びしっと不良たちを指差して、夕はいかにも正義感たっぷりにそう言った。実際そう言ってる夕だって、一般で言う不良の格好をしているのだから、あまり格好がつかない。
 僕の想像通り、不良たちは吊り上げた目で夕をガンつけた。
「あぁ?誰だてめぇ」
「生憎、男に名乗る名前は持ち合わせてねぇ!人の財布を盗もうなんて馬鹿には特にな!」
 ……それはお前だ、お前。
「邪魔すんじゃねぇ、こっちは“集金中”なんだよ」
「あんだよ、逃げんのか。弱いヤツいじめんのは弱いヤツだけってなぁ、いかにもじゃねぇか」
「あぁ?やんのかてめぇ」
「やろうぜ。今日は暇なんだ」
 嬉々として蹴りを繰り出す夕。だが、勢いが良すぎた。軸足が濡れた地面で滑る。
「うぉっ!?」
「マヌケが!」
 体制を崩した夕に、不良の一人が蹴りを繰り出した。
 だが蹴りは、夕まで届かない。
「朝!」
 そう、僕が蹴りを出した不良の足を横から蹴りつけたからだ。
 僕は溜め息をついて、その不良の鳩尾に膝を叩き込んだ。
「馬鹿夕。ケンカは僕より強いはずじゃなかったっけ?」
「滑ったんだよ!」
 まんまだ。言い訳にもなってない。
 起き上がった夕と背中を合わせて立った僕は、振り返らずに夕に聞く。
「で?見返りは」
「なんだよ、正義の味方が見返りなんて求めんのか?」
「正義じゃない。僕らは悪だろ」
「へっ、違いねぇや」
 夕が自嘲的に笑う。
「しゃあねぇ、見返りは晩飯だ。それで勘弁しろ」
「勘弁しない。安土屋のあんみつもつけろ」
「けっ…相変らずたけェやつだぜ」
 ぼやくが否定はなし。交渉成立。
「じゃ、軽く伸すか。早く飯食いたい」
「はいはい、お望みどおりにっ!」
 そうして何十秒か後には。
 徹底的に伸された不良と、うずくまった少年がその場にとり残されたのだった。


 次の日。結局学校にケンカがバレて、僕らは職員室に呼び出された。
「またお前らか!!この不良どもめが!!」
 教頭が怒鳴る。僕は夕と並んで、まったくの無表情で教頭を見ていた。
 話を聞かない教頭の言い草に、夕がむっとして言い返した。
「こっちは人助けしたのに、何で怒られなきゃなんねぇんだよ」
「人を殴っておいて人助けか!ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてねぇよ、このハゲ!!」
「ななな、なんだとぉぉっ!!??」
 五月蝿い。僕は夕の頭を軽く叩いて、教頭に頭を下げた。
「すみませんでした。以後気をつけます」
「その言葉を何度聞いたと思っとるんだ!」
「…お言葉ですが、教頭」
 僕の抑揚のない声に、教頭が一瞬黙る。
「僕らは間違ったことはしてない。カツアゲにあってる人を黙って見過ごすのが、あなたが俗に言う“良い人”のすることですか?だとしたら、あなたの正義はゆがんだ正義ですね」
 僕は淡々とそれだけ言うと、納得行かない顔をしている夕の背中を押して職員室を出た。後ろから教頭の怒鳴り声が聞こえるが、機嫌が悪いので無視する。
 廊下のスピーカーから予鈴が鳴った。もう授業が始まる。僕のとなりを歩きながら、急に夕が喉の奥で笑った。
「流石だな、朝!やっぱりお前の睨みが一番怖いぜ!」
「本当に、あの教頭は分からない人だな。僕らには僕らなりの正義があるってんだ」
「へっ、朝も言うようになったじゃねぇか!」
 嬉しそうに夕が僕の背中を叩く。
 そう。夕に会ってから僕は変わった。
 人は夕を、僕の悪友だという。だけど、それは決め付けに過ぎない。
 “正義”は絶対的なものじゃない。善と悪だってそうだ。
 周りに流されず、自分を貫く夕に、僕は惹かれたのだろうか。
「なぁ、朝」
 夕が僕を呼んだ。やけに声音が大人しい。
「何さ」
 そっけなく返すと、夕は楽しげににやりと笑った。
「授業このままフケるか!」
 ………。
「ふっ……」
 僕は思わず失笑した。
「いいよ、フケよう。何処に行く?」
「屋上だな、昼寝が出来る」
「いいね、賛成」
 僕は夕と忍び笑いながら、屋上への階段を登っていく。
 やっぱり、夕は僕の一番の悪友だ。


   * * *


「そういや、夕」
「あん?」
「結局あの拾った財布どうしたの?」
「あぁー…あれな。お前に睨まれたかねぇから、サツの前に落としてきた」
「普通に届ければよかったのに」
「普通に届けて、『あぁそうですかありがとうございました』で済むと思うのか?」
「…それもそうか…」

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