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■Episode-Halloween at 2011■ □side-E□

 翌日。いつもの通り朝早く、早川は学校に到着した。朝の誰もいない学校の空気が好きではじめた一番登校だったが、こんな秋晴れの少し風が冷たい日は、少し寂しい気持ちになるときもあった。もちろん、そんなことを誰かに話したことなんて一度もないが。
「今日も一番乗りかなぁー、えへへ」
 朝日が差し込む廊下を歩きながら、早川は足取りも軽く教室へと向かった。
「おっはよー! なんち…って……」
 ガラッと勢いよく引き戸を開けた早川は、聞きなれない小さな機械音に思わず口をつぐんだ。自分の机の上を、見慣れない手乗りサイズのかぼちゃの魔法使いが、ジージーと音を立てながらくるくると回っていた。
「何、これ……」
 早川は人形を手に取って、ふと窓際の席に視線を向けた。そこには、昨日飴玉をあげた物静かな男子が、暖かそうな朝日を浴びながら、机に突っ伏して心地よさそうに寝息を立てていた。
 もしかして、この人形は彼のものだろうか。きっとそうだろう。意外な彼の一面に早川は驚いたが、もしそうだとしたら、彼のいたずらは大成功だ。
 昨日、飴、あげたのになぁ。なんだかくすぐったい気持ちがして、早川はクスッと笑みを漏らした。普段つっけんどんでどこかそっけない彼の寝顔は、優しくてあどけない。不器用な彼へのせめてもの礼にと、早川は安眠を妨げないように、そっと人形のスイッチを切った。


 それから更に数日後、彼の住む町にある児童養護施設に、一昔前のおもちゃたちが匿名で届けられたのはここだけの話である。

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