■File:4 武士の魂! 学祭演劇を成功させよ!■ □side-E□
太陽が真上を過ぎ、徐々に傾き始めた午後二時頃。幸と孝也は屋内の見回りを終えたところだった。
「屋内は異常なし…だったな」
「ほんとに何もなかったな…つまんねぇ〜」
「トラブルシューターがトラブルを望むな」
「う、そうなんだけどよ……」
幸はそういいながら、照りつける太陽に手をかざした。屋内から急に外に出ると、日の光がまぶしく感じてしまう。
「あ、劇、もう始まったな……」
遠くで時刻を告げる鐘が鳴り響くのを聞いて、幸は残念だという顔をする。
この後もこのまま何もないんなら、今からでも劇を見に行こうか。
そう幸が孝也に提案しようとした時。
学校の門近くから悲鳴が聞こえた。
「?! タカ!」
「あぁ……」
孝也に目くばせして、幸は即座に走りだした。孝也もその後を追ってくる。
遠くから見て、幸ははっとした。
緑色のブレザーの生徒四人が明鐘の男子生徒を囲み、一人がその生徒の胸倉を掴んでいる!
「待て、てめぇらっ!!」
遠くから幸が怒鳴ると、北高の生徒四人はゆっくりと幸を見た。
「……なんだてめぇ」
「トラブルシューティング部だ!」
「は?」
聞きなれない単語に、北高の生徒は思い切り顔をしかめた。リーダー格らしい男が、男子生徒の胸倉から手を放してにやりと笑う。
「なんだかしらねぇが、てめぇに構ってる暇はないんだ。探し物をしてるんでな」
「探し物……?」
幸がふっと考えた隙に、北高の生徒達は幸を突き飛ばして学校の奥へと走っていく。
「じゃあなっ!」
「あっ、待てこらっ!!」
追いついた孝也をそっちのけで、幸は北高の生徒を追って再び学校の奥へと走って行った。孝也は状況把握のために、地面に座り込んでいる生徒に手を貸す。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ……ありがとう」
「今の奴らは?」
「わかんねぇよ…急に胸倉つかまれて、『サムライはどこだ』って言うんだ。そういや二年の劇にサムライが出てくるって言った時に、あの茶髪が割り込んできたんだよ」
サムライとは時鳴、茶髪とは幸のことだろう。大体の状況を把握して、孝也はふむ、と考えを巡らせた。
「待て、こらっ!!」
一方幸は北高の生徒を追って学内を走っていた。祭りを楽しんでいた生徒達はそれとすれ違って、何事か、と道を振り返る。
「何をしている、トラシュー部っ!!」
どこかで聞き覚えのある声が後ろから追ってきて、幸は振り返らずに答えた。
「トラブルを追ってんだよ! 邪魔すんな金城!」
生徒会長、金城一成は息も荒く幸を追いかけながらがなった。
「そういうわけにいかーんっ! 大体、トラブルは貴様らだ!!」
「んだとぅ!?」
返すだけ返すが、幸の目は北高の生徒から逸れなかった。走っている道を見て、幸の頭に何かが引っかかる。
「この道、確か……」
「こらー、止まれーっ、そっちは体育館だぞーっ!!」
うるさい金城のどなり声に、幸ははっと気がついた。
「体育館……そうか! ――まずいっ!!」
時刻は二時半頃。幸は最悪の事態に青くなりながらも、北高の生徒を止めるために全速力で追いかけた。
「ふふ、うまく抜け出せて良かったねアキちゃん」
その頃。結衣と明良はクラスを抜け出して、体育館まで来ていた。舞台上では、脇役であろう数人と、ヒロインである雛子が芝居をしている。
「あとで怒られても知りませんよ……」
「問題ない問題ない。わー、ヒナ先輩きれーい」
舞台上の雛子はうっすらと化粧をしているらしい。いつにもまして華やかなその容姿は繊細で優雅で、雛子本来の美しさが見える。派手すぎず大人しすぎないワンピース。ゆるいパーマのかかったロングヘアを飾る、シンプルなカチューシャ。幸よりも色素の薄い髪は、舞台照明に輝いて金色に見えた。
「ヒナ先輩、役者だね〜。すごく堂々としてるよー、素敵♪」
はしゃいで褒めたたえる結衣を見て、明良はそういう結衣も相当な役者だよと思ってしまう。
あらかじめ、部活から呼び出しがあったら抜けると言っておいた結衣と明良。結衣はそれを利用して、わざと大きな音で携帯電話の着メロを鳴らし、電話に出るふりをして、トラブルを偽造したのだ。
全部が自然な動作だった。多分、騙されない人間はいないほどに。
「あ、トキ先輩出てきたよ!」
結衣の言葉に、明良も舞台に視線を向けた。
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