■File:5 夏の海! 旅行中のトラブルを解消せよ!■ □side-B□
それぞれの部屋に荷物を置いてきた一行は、リビングでアイスティーを飲みながら、雛子にこの家の周りのことを聞いていた。
なんでもこの辺一帯の土地は海岸、海域含めほぼ桜井グループの所有なので、他の人間が入ってこないプライベートな空間であるらしい。
雛子の説明に食いついたのは、ほかでもない幸だった。
「ってことは、あの海岸、お前んちのプライベートビーチってやつか!?」
「まぁ、実際そうなりますわね」
幸の勢いに体を引きながら雛子が肯定すると、幸はうずうずと落ち着かない様子で提案した。
「な、まだ夕方まで時間あるし、海行って泳がね!?」
「わっ、いいですね!」
結衣が手を叩いて賛同した。雛子は少し迷うように、傍らに控えていた菊子に視線を向ける。
雛子の視線を受けて、菊子は穏やかに微笑んだ。
「お夕食の時間でしたら、ずらしてもかまいませんよ。皆様がこれから遊ばれるのでしたら、十九時からにいたしましょう」
「ありがとう、菊子さん」
雛子の礼に、菊子は笑って首を振った。
「よーし、そんじゃ早速着替えて来ようぜ!」
うきうきしながら立ち上がった幸を先頭に、一行はぞろぞろとリビングを出た。男子たちは右の大部屋に、女子たちは水着を取りに行った雛子を待ってから左の大部屋へと着替えに入った。
早くも着替え終わったらしい男子たちのどたどたという足音をドア越しに聞きながら、雛子が呆れたように溜息をついた。
「全く、もう少し静かにできないのかしら……騒々しい」
「まぁまぁ…元気なのはいいことじゃないですか」
笑いながらフォローを入れた結衣は水着の上から白いシャツを羽織ると、片手にいつもの黒いローブを持って、ドアノブに手をかけた。
「えへへ、私も先に行ってますね! それじゃ!」
瞬く間にドアを閉めてぱたぱたと駆けて行った結衣を見て、唖然とする雛子に明良は苦笑した。
「ユイも先輩たちと一緒で、早く遊びたかったんですね……」
「……まぁ、いいですけど……」
再び溜息をつきながら自らも着替えを終えた雛子は、ふと明良の格好が来た時と何にも変わっていない事に気がついた。
「アキ…着替えないんですの?」
「あ、はい……水着持ってないですし、自分、泳げないですから……」
「泳がなくても着替えればよろしいのに。わたくしのをお貸ししますわよ?」
雛子が不思議そうにそう言っても、明良は少し困ったように笑いながら首を振った。
「いえ、本当に大丈夫です……ほら、行きましょう? サチ先輩がきっと痺れを切らしてますよ」
座っていたベッドから飛ぶように立ちあがって先にドアを開けた明良に、雛子は釈然としないまま、上着とタオルを手にとってその後に続いた。
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