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■File:5 夏の海! 旅行中のトラブルを解消せよ!■ □side-G□

「それからです。ユイがあの、黒魔術みたいなのを学び始めたのは……」
 もしもまた何かあった時に、すぐに探し出せるように、助け出せるように。
「ユイは、あの事件をユイ自身のせいだと思っているんです。だから、あの黒いローブは手放さない。もし自分に何かあったら、すぐに対処が出来るように」
 明良は自身の膝を抱え込むように座りながら、膝の間に顔をうずめた。
「自分は、自分がユイを縛っているんじゃないかって、怖いんです。この格好をしていれば、少なくとも危険な目にあう確率は下がるので……ユイが、普通に笑っていられるようになるんじゃないかって」
 幸は静かに明良の話を聞いていた。明良は顔をうずめたまま、震える声で呟いた。
「でも、結局ムダだった……どうしたらいいんだろう、どうしたら……」
 そのまま、明良は黙りこくってしまった。濡れたその肩がかすかに震えていた。
 月はもう、地平に沈もうとしていた。ほのかに空が明るくなってきていた。
 そんな景色をちらりと見やって、幸は明良の頭をぽんぽんと撫でた。
「アキ」
 そう呼んだ幸の声が普段よりもずっと優しくて、明良は顔を上げた。
 幸は明良の頭に手を載せたまま、柔らかい笑みを浮かべた。
「アキがそう思ってるのと同じようなことを、きっとユイも思ってる。
 自分のせいだ、なんて思うなよ。どっちも悪くないだろ?
 大事なものを守ろうとするのは、悪いことじゃないさ。でも、相手も同じことを思ってるってことは覚えとけ」
 上の方がにわかに騒がしい。ついと上を見た明良に、幸は続けた。
「大事に思われてるのが分かってるなら、言う言葉も分かってるだろ?」
「アキちゃん!」
 崖の上から、結衣が顔をのぞかせた。不安と安堵が入り混じったような、半泣きの表情だった。
「サチ殿、アキ殿、大丈夫か? 今ヒナ殿の船がそっちに向かっているから、もう少し我慢してくれ」
 時鳴が結衣の隣から顔をのぞかせてそう言った。幸は嬉々として手を振った。


「アキちゃん、大丈夫!? けがはない!?」
 岸についた明良に、結衣が駆け寄った。明良は黒いローブを羽織ったままの結衣にうなづいた。
「うん、大丈夫」
「ごめんねアキちゃん、もっと早く気づければ……」
 謝る結衣を制して、明良は笑顔を浮かべた。
「あの時も今回も、ユイのせいじゃないです。見つけてくれてありがとう、ユイ」
 結衣の目がじんわりと熱くなった。うるんだ目を閉じてぶんぶんと勢いよく首を横に振ると、結衣はにっこりと笑った。
「どういたしまして、アキちゃん」
 そんな二人を満足そうに眺めながら、幸は孝也に肩を借りながら船から降りた。時鳴が気づいて、幸の方に歩いて来た。
「サチ殿、足は大事ないか」
「ちょっと捻っただけだ、心配ないさ。それより……」
 幸の言わんとするところを察して、時鳴はこくりとうなづいた。
「ヒナ殿を狙った刺客が四名、館に潜入してきた。今は昏倒させて、紐で縛ってある。菊子殿が警察に連絡したので、ひと先ずは安心だろう」
「そっか。サンキュ、トキ」
 幸が礼を言うと、時鳴は無言で首を振って、雛子をちらと見た。雛子は菊子と共に、明良や結衣と談笑していた。
「さ、戻りましょう? お腹もすいたと思いますから、軽食を用意しますよ」
「やった! サンキュー菊子さん!」
 はしゃぎ喜ぶ幸に振り回され、孝也が悪態をつく。その様子に笑いながら、みんなは館の方に向けて歩きだした。
 水平線からは太陽がのぞき、海は宝石のようにきらきらと光り輝いていた。

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