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■File:6 結衣の退部!? 呪いに脅える男子生徒を守護せよ!■ □side-B□

 それは、三日前の放課後のことだった。帰り支度を整えた結衣と明良は、トラシュー部の部室に向かおうと、帰る生徒で込み合いざわつく廊下を二人で歩いていた。
「今日は何か依頼があるかなぁ、アキちゃん」
 結衣がわくわくを押し隠しながら明良に尋ねた。明良はそうですね、と呟いて、ここ最近のトラシュー部の活動をざっと思い返した。
「前回の依頼がひと月前…夏休みが明けてすぐのことですから、もうそろそろ何かあるかもしれませんね」
 ここ数日、そのような会話は二人のお決まりとなっていた。まだ来ない次の依頼について取りとめもなく喋りながら、二人は廊下をゆっくりと歩いていった。
「あの……夢野結衣さんですか?」
 もう少しで階段にさしかかろうという時に背後から呼びかけられ、結衣と明良は後ろを振り返った。
 そこには三人の女生徒が、帰る人波に逆らって立ち止まっていた。二人と同じ学年バッジをつけた女生徒たちは、好奇心できらきらと瞳を輝かせながら、遠慮がちに結衣を見ていた。
「そうですけど……」
 わけがわからないまま結衣が答えると、三人は喜びもあらわにきゃっきゃとはしゃいだ。
「あぁ、やっぱり! お探ししていたんです!」
 結衣と明良は顔を見合わせた。探される理由はないはずだ――トラシュー部を除いては。
「あの、もしかして……」
 トラシュー部に用ですか、と明良が尋ねようとした時、三人の女生徒は乱暴に明良を押しのけて、結衣の周りに群がった。
「ユイさま! お噂はかねてよりお聞きしておりました!」
「どうぞ、私たちを弟子に!」
「そして、私たちと共に、黒魔術同好会を立ち上げましょう!」
「……はぁっ!?」
 予想だにしていなかった展開に、押しのけられた明良は素っ頓狂な声を上げた。結衣は驚きのあまり、呆然と自分を囲む三人を見つめている。
 彼女たちは、いかにして自分たちが黒魔術に憧れを持つようになったかを述べ、結衣の噂を耳にするようになってからは、ずっと結衣を探していたのだということを熱く語った。
 息つく間もなく語られる三人の話を、結衣は困惑したような、しかしどことなく嬉しそうな笑顔で聞いていた。
 そんな結衣の様子を輪の外で見ていた明良は、胸の内が少しずつ重たくなっていくのを感じた。
「ユイさま、どうかお願いしますっ!」
 三人の中で、小柄で活発そうなショートカットの女生徒が頭を下げた。それに続いて、残りの二人も頭を下げる。
「えっと、でも、あの、私もうトラシュー部に所属してるし…ねぇ、アキちゃん」
 慌てた結衣が困ったような笑顔で明良に同意を求めた。まんざらでもなさそうなその表情を見て、固まった明良の口がぎこちなく開いた。
「……いいんじゃ、ないですか」
「……え?」
 予想外の肯定の言葉に、結衣が目を丸くする。いけない、と思いつつも、一度開いた明良の口は止まらなかった。
「いいんじゃないですか、黒魔術同好会。その方々もそんなに頼んでいますし、楽しいと思いますよ」
「え、でも……」
 狼狽した結衣は言葉を詰まらせた。明鐘高校は部活動の掛け持ちを禁止している。結衣が黒魔術同好会を立ち上げるということは、すなわち、トラシュー部を退部するということだ。
 そのことをもちろん分かっていた明良は、結衣から逃げるように視線をそらした。
「ねぇ、アキちゃ……」
 なおも明良に呼びかけようとした結衣をさえぎって、女生徒たちは結衣の手を引いた。
「その方もそう言っていることですし、とりあえず詳しいお話を!」
「決めるのは後でも構いませんので」
「ささ、中庭のベンチで話しましょう!」
 口々にそう言いながら、女生徒たちは結衣の手を引いたり背を押したりして促した。
「ちょっと待ってよ、話を…アキちゃん!」
 結衣はなんとか抵抗して明良の方を振り返ったが、何も言わずただ自分を見つめている明良の表情に言葉を失くして、そのまま女生徒たちに連れられて行ったのだった。

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