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■File:6 結衣の退部!? 呪いに脅える男子生徒を守護せよ!■ □side-E□

 雛子と共に男子生徒を連れて部室に戻った明良は、まず濡れた雛子のワイシャツをハンガーにかけて窓際に吊るした。男子生徒は一番入口に近い所に出された依頼人用のパイプ椅子に座り、落ちつかない様子でごちゃごちゃした部室に視線を巡らせている。そこで明良はようやく、雑然とした部室の状態に気が付いたのだった。
「えっと…俺、一年六組の藤岡智弘(ふじおかともひろ)っていいます」
 藤岡の自己紹介を傍らで聞きながら、明良はお茶の準備を始めた。茶葉を入れた急須に、電気ケトルからお湯をそそぐ。
「とりあえず、何があったのか教えてくれよ」
 幸が先を促すと、藤岡はどこか威圧感のある幸と時鳴に物怖じしながらも、依頼について話し始めた。
「実は、最近彼女と喧嘩したんですけど、四日前に電話があって」
 そこまでなら何らおかしなことはない。怪訝な顔をした一同に、藤岡は慌てて先を続けた。
「そ、その電話で一言、『あなたは私を裏切った。絶対に呪ってやる』って」
 普通の人なら笑い飛ばすその一言に、しかしトラシュー部の面々は真剣な面持ちで顔を見合わせた。呪いが本当に起こりうることを身を持って知っているからだ。
「あなたが何か、彼女を裏切るようなことをしたのではなくて?」
「そんな覚えはありません!」
 辛辣な雛子の言葉を、藤岡は真っ青になって否定した。雛子を除く三人には、この実直そうな少年が彼女を手酷く裏切るようには見えなかった。
「とりあえず少し落ち着いてください。お茶をどうぞ」
 雛子の責めるような視線に脅えている依頼人の前に、明良は静かにお茶を出した。藤岡は礼を言って湯呑を手に取ると、ずず、と音を立ててお茶をすすった。それから、自分を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐く。
「…その日から、なんだか悪い事が続くんです。運が悪くて怪我をしたり、何かをしようとしたらタイミングが悪くて出来なかったり…初めはただの偶然だと思って全然信じてなかったんです。彼女に連絡が取れないのもただ怒ってるだけだと思ったんですが、段々怖くなってきちゃって……」
 藤岡の顔は恐怖に青ざめたままだ。強い力で湯呑を握る手はすっかり色を失くし、小刻みに震えていた。
「悩んでいたら、友達がこの部を教えてくれたんです。呪いとか、そう言うのに詳しい人がいるって」
 そう言って、藤岡はすがるようにトラシュー部の面々を見た。
 呪いに詳しい人物というのは、おそらく結衣の事だろう。この状況をどう説明しようかと先輩三人が悩んでいると、依頼人の隣に座っていた明良が依頼人に首を振った。
「残念ですが、その人は今部活にいないんです。でも大丈夫。自分たちが絶対になんとかします。ね、先輩!」
 いつになく気合いのこもった明良の視線に押されて、幸は力強くうなづいた。
「お、おう、もちろんだぜ! 安心しな、藤岡。そのトラブル、トラシュー部が引き受けた!」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
 こうして、トラシュー部はトラブル解決に向けて動き出したのだった。


 その日は明良が藤岡を送って行くことになり、明良は藤岡と共に部室を出て行った。残った幸、時鳴、雛子の三人は、今後の方針を決めるべく作戦会議を始めた。
「……とは言っても、いつも情報収集とかはタカに頼りっきりだったからなぁ……」
 と、依頼人から預かったメモを眺めながら、幸が弱気にぼやいた。孝也は今、研究者である両親の手伝いで学校を休んでいる。情報収集の類は孝也のデータベースに頼り切っていたので、幸にはその方法がさっぱり思いつかなかった。
「ケータイで連絡はとれませんの?」
「うーん……一応掛けてみっか」
 幸は携帯電話をポケットから取り出すと、いくつかボタンを押して耳にあてた。無機質な呼び出し音が十回ほど鳴ったところで、孝也が出た。
『もしもし。何だ?』
「お、タカ。オレだ、サチだけど」
 時鳴と雛子の視線が幸に集中する。
『そんなことは分かってる。手短に済ませてくれ』
「実は、部活関連で調べて欲しいことが」
『誰についてだ?』
 幸がメモを読み上げると、さらさらと受話器からメモを取る音が聞こえた。
『ふむ、分かった。手が空いたら調べてみよう。明後日にはそっちに行けると思う』
「わりーな。頼んだわ」
『あぁ。じゃあな』
 ぷつりと電話が音を立てて切れた。幸は携帯電話を閉じてポケットにしまうと、伺うように自分を見ていた二人にむけて笑った。
「タカが調べてくれるってよ。明後日にはこっち来るそうだ」
 連絡してみるもんだな、と幸は上機嫌で言う。
 同じように安堵する雛子の向かいで、時鳴がぽつりとつぶやいた。
「で……拙者たちは何をする?」
 時鳴の一言に、その場はしんと静まり返ったのだった。

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