齢はライハと同じくらいか、少し上だろうか。茶色の髪を三つ編みにし、青い瞳は不安げに揺らいでいる。色の白い顔にはそばかすが浮いていた。服は少し古びていたが清潔で、裕福ではないがスラムに住むよりはまともな暮らしをしているだろうと、ローゼルは彼女を観察しながら当たりをつけた。
「お願いします、冒険者を紹介してください…! 弟が…」
「悪いが、うちの<冒険者(トリ)>は出払ってんだ。よそに行ってくんな」
「そうやって何件も断られたんです! お願いします、どうか腕の立つ方を紹介してください…!」
頭を下げたまま一向に動かない少女に、酒場のマスターは困り果てた様子で頬をかいた。
「あら、冒険者ならここにいるじゃない」
場の沈黙を破ってそう声をかけたのは、パーティいちのお節介焼きであるエリータだ。宿の主人が咎めるのもお構いなしに、エリータは顔を上げた少女に話しかけた。
「わたしたちはラルードにある【白鹿亭】の【蒼空の雫】。わたしたちでよければ話を聴くわ」
エリータの言葉に希望を見い出した少女の顔が輝いた。エリータの独断に、ライハが苦虫を噛みつぶしたような表情で口を挟んだ。
「エリータ、お前勝手に……」
「いいじゃない、イーストビギンズは<冒険者>不足だし、わたしたちは依頼を終えてフリーだもの。ラルードに帰る前に寄り道したって大して変わらないわよ」
ニッと大胆不敵に笑ったエリータの有無を言わせない顔に、ライハは早々に諦めて諸手をあげた。
「私の弟が…魔物にさらわれたんです」
椅子に座って出された飲み物をひと口飲んでから、少女は事の顛末を一行に話し始めた。
「西郊外の川のほとりに、弟と花を摘みに行ったんです。両親はすでに他界していて、時折墓前に添えるために花を摘むのが私と弟の習慣でした」
そして、いつも通り弟と花を摘み、一緒に暮らしている叔父の元へ帰ろうとした時だ。弟より少し先を歩いていた彼女の後ろで突風が巻き起こったかと思うと、弟が翼を持った魔物に連れ去られてしまった。
「見間違いかもしれないんですが、魔物の体に数字が刻まれているように見えました。そういう術を使う魔術師もいると、噂で聞いたことがあって……」
そこまで話して、少女は不安のあまり口をつぐんだ。一通り話を聞き終わったエリータがふむ、と考えながら腕を組んだ。
「確かに、魔物が無目的に人をさらうなんて考えにくいわね。魔術師の線はありそうよ」
「手口が大胆すぎる。魔術師だとしても、<連盟>のやつじゃなさそうだな…」
「どうします? 弟さんをさらった目的はわかりませんが、手段が手段ですし、あまり時間がなさそうですよ」
ファルが心配そうに眉をひそめた。彼の言うとおり、あまり時間がないのは確かだ。魔術師は無駄なことはしない。
ライハはしばし考えてから、ちらり、と伺うようにアニスを見た。
「…<猫の集会所(キャッツラリー)>を使おう」
ライハの決断に、アニスはあからさまに顔をしかめたのだった。
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