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■File:2 乙女のピンチ!? ストーキングされる女子高生を救出せよ!■ □side-A□

 高崎明良がトラシュー部に入部してから一か月。この日も彼らは暇であった。
 明良は部室の入口付近の椅子に座って、何とも言えない複雑な顔で部室内を見渡した。
 まず正面。我らがトラシュー部の部長である藍原幸は、イスにだらしなく腰かけて、持参した漫画雑誌をめくっては大声で笑い転げていた。その隣では副部長の潮見孝也が、無表情でノートパソコンと向かい合い、なにやらカタカタと打ち込んでいる。さらにその手前では、武士の末裔らしい羽柴時鳴が真剣な表情で丁寧に刀を磨いていた。その向かい側に座るお嬢様の櫻井雛子は何やら爪をいじっているし、その隣に座っている夢野結衣は何やら怪しげな本をめくっては、傍らのルーズリーフにちょこちょこメモをしていた。
 そんな、各々が好きなことをしている部室内でただ一人何をするでもなく、明良は椅子に座っていた。
 暇だ、余りに暇すぎる。
「あの…部長?」
「んー?」
 明良が声をかけると、幸は漫画から目線を上げずに声だけで答えた。
「……あの、今日の活動は……」
「することないし、依頼来るまで自由!」
 そうは言うものの、この一か月の間、まともな依頼など来たことがない。
 明良は溜息をついて鞄を手に取ると、ゆっくりイスをひいた。
「今日は自分、帰りますね」
「おう、おつかれー」
「お疲れ様です」
 ぱたん、と静かに扉を閉めて、明良は大仰に溜息をついた。
 明良は先月、入学早々ヤンキーに目をつけられたところをトラシュー部に助けてもらい、何となく心惹かれてトラシュー部に入部した。だが入部してからというものの、いつも部内はあの調子。明良はトラシュー部に入ったことを軽く後悔し始めていた。
 大体、面白いぐらいに依頼が来ないのだ。自分が来る前に彼らはいったい何をしでかしたのだろうか。少し不安になる。
(まぁ、悪い人たちじゃないと思うけど……)
 でなければ、他人のために自らの体を張ることなどできないだろう。
 複雑な気持ちに、明良はまた溜息をついた。
(……あれ)
 ふとうつむけていた顔をあげれば、校門の前で、明らかに挙動不審な動きをしている女子生徒がいた。何かに怯えているように体を強張らせ、目は油断なくきょろきょろと動いている。
 明良はその顔に見覚えがあった。確か、同じクラスの――
「池田さん」
 後ろから声をかける。池田里奈は体をびくつかせると、こわごわと振り返った。
「…た、高崎…くん?」
 明良はくん付けされたことに一瞬ショックを覚えたが、慣れたことだと無理やり納得して里奈に尋ねた。
「どうかしたんですか? なにかに怖がっているようでしたけど……」
 案じるような明良に、里奈はおどおどと目線をそらした。
「な…何でもないの。高崎くんには関係ないし……」
 確かに自分には関係のないことだろう。だがしかし、あんなにびくついているのを放っておくわけにはいかない。
「…困ってることを抱えているのは良くないですよ。ほら」
 そう言って、明良はそっと里奈の肩に手を置いた。
「こんなに震えてる」
 里奈は初めて自分が震えてることに気づいたらしい。そろりと、明良にすがるような目を向けてくる。
「大丈夫」
 明良は安心させるように、ふわりとほほ笑んだ。
「まずは移動しましょう。あなたを助けてくれる人たちのところへ」

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