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■Episode-Halloween at 2011■ □side-D□

 あらかた修理を終えた流琉はひとつ息をついた。手掛けた場所を一通り点検してから報告のために店舗に戻ると、がちゃがちゃん! と音を立てて棚の上のおもちゃが目の前で崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
「あららららら、大変。ごめんなさい大丈夫よ」
 もうもうと立ち込めた埃の奥から、そう応える相川の声が聞こえた。埃が落ち着いてから、流琉は片付けを始めた相川を手伝おうと、床のおもちゃに手を伸ばした。
「あらやだ、いいのよ私がやるから」
「いえ……ヴィニ、ですよね」
 片付ける二人に目もくれず奥へ走って行ったヴィニを見て、流琉は申し訳ない気持ちだった。頭の片隅には、「あぁ、また物品破損だ。給料が減るなぁ…」とわびしい思いも少しあった。
 相川は苦笑しながら、のんびりとおもちゃ箱に積もった埃を手で軽く払った。
「いいのよ。ここで誰にも遊んでもらえずにいるよりは、ああして遊んでもらった方がおもちゃにとってもステキだもの。気にしないで」
「でも……」
 先ほどの昔を懐かしむような夫人の目を思い出して、流琉は言葉を詰まらせた。箱をあらかた積み直した相川は、ついさっきまで動いていたハロウィンの手乗り人形を床から拾い上げた。
「あら、壊れちゃったわね……本当に気にしないで。そうそう、修理、終わったのよね。おいくらになるかしら」
 複雑な気持ちのまま、流琉は言われた通りストップウォッチを確認して、所要時間を書類に書きいれた。料金を計算しようとして、しかしふと、その手を止めた。
「……修理屋さん?」
「あの、お代は、いいです。その代わり……」
 唐突な流琉の申し出に、相川夫人は驚いて目を丸くした後、涙のにじんだ瞳を細めて頬笑み、その申し出を承諾したのだった。

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