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■File:2 乙女のピンチ!? ストーキングされる女子高生を救出せよ!■ □side-C□

 里奈が依頼に来てから一週間。あれから毎日里奈を送っていたが、結局一度もストーカーの気配はなかった。
「うーん、どうしたもんかな……」
 困ったように幸が頭を掻いた。里奈は先日と同じように依頼者用の椅子に座って、緊張に体をちぢ込ませている。
 ノートを広げて勉強していたらしい雛子が、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「どうせその子の嘘なんじゃありませんの、勘違いとか」
「ヒナ」
 幸が諌めた。雛子はぷいっとそっぽを向いて知らん顔をしてしまう。
「確かに、噂や目撃証言はない。勘違いの線はあるかもな」
「おい、タカまで」
 幸の語気が荒くなる。同時に、里奈がイスから勢いよく立ちあがった。
「……ごめんなさいっ!」
「あっ、池田さん!」
 明良の引きとめも聞かずに、里奈は部室を飛び出した。すると、今までカードをいじっていた結衣がハッと蒼白になった顔をあげる。
「アキちゃん、追って!」
「!?」
「あの子の近くに男が見えたわ、急いで!」
 結衣の占いは当たる。明良は身を持ってそれを知っていた。だからはじかれたように部室を飛び出す。
「アキ!」
 後ろから幸の声がするがかまわない。明良は校門にむかって走った。
 校門を出た少し先に人影が見えた。立ち止っている里奈と……その前に立ちふさがる男!
 明良は焦った。この距離じゃ、間に合わないかもしれない。
 その時、横をものすごいスピードで時鳴が走り抜けた。明良が気づいた時には、時鳴はもうすでに二人の間に割って入り、男の喉元に鞘ごと刀を突き付けていた。
「何者っ!」
「ひぃっ!?」
「トキ、ストーップ!!」
 後ろから駆けてきた幸に制止されてトキは刀を腰に戻した。男はあまりの恐怖に腰が抜けたらしく、へたりとその場に座り込んでしまう。
 男は皆と同じ明鐘高校の制服を着ていた。襟元には二年生を示す学年バッヂがついており、目を覆う前髪とおどおどした態度はいかにも根暗そうだ。
 その様を見て、幸は胡乱気な顔で男を指さした。
「…ストーカー?」
「二年三組の原田良(はらだよし)。得意科目は美術、趣味は写真撮影か」
 どうでもいい情報が孝也の口からすらすらと出る。
「……お前、良く覚えてるよな」
「いつでも脅せ……こほん。データを活用できるようにな」
 ごまかした孝也を白い目で睨む幸に、原田は慌てて声を絞り出した。
「すっ、ストーカーじゃないっ!!」
「……はぁ?」
 全否定した原田に、皆が異口同音に疑問の声をあげた。


 改めて原田の話を聞いてみるとこういうことらしい。
 約二週間ほど前、校門前の木々をカメラで撮影していた原田は、一人で帰る里奈を見た。
(あの子、いつも帰り一人だな……)
 そう思って見ていると、彼女の鞄から何かの拍子に、学生証がひらりと落ちた。
「今…も、持ってないですよね」
 確認するような原田の言葉に、里奈は慌てて鞄の中を見た。
「あっ、ほんとだわ!」
 里奈が驚きに声を上げる。原田は溜息をついた。
「何ですぐ返さなかったんだ? その場で声をかければよかったじゃないか」
「そ、それが……僕、ひ、ひ、人と向き合って話すのに、にが、苦手で……」
 先ほどから蒼い顔でずっとどもっているのは、どうやらそのためのようだ。
 結局その場で声をかけれなかった彼は、タイミングを見計らっているうちにストーカーと勘違いされてしまったらしい。
 一週間後には知らない男二人が彼女とともに下校するようになり、ますます声をかけづらくなった彼は、さらに一週間、知らないふりをするしかなかったという。
 で、今日、彼女が一人になったので、勇気を出して声をかけたところを時鳴に制止されたのだ。
 なるほどな、と一同が納得したところで、原田が鞄から里奈の学生証を取り出した。
「あ、あの、おっ、おそくなって、すすす、すみません……」
 震える手で差し出された学生証をそっと受け取って、里奈はかすかに笑みを浮かべた。
「…ありがとうございます」
 和やかに笑いあった二人を見て、幸はくるりと踵を返した。
「よし、一件落着! 部室戻るぞ!」
 ぞろぞろと移動を始めた中、結衣が明良の肩を叩いてにっこり笑った。
「お疲れアキちゃんっ、初依頼完了だねっ」
「…お疲れ、様でした」
 そう言われてみればそうだった。なんとなく明良が振り返ると、里奈がそっとお辞儀をした。

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