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■雪柳はただ風に舞う■ □第四話〜来訪者、そして□

 日も大分傾いてきた野原。雪晴と風夏はあの後もずっと、座ったまま二人で談笑していた。刻々暮れゆく空に、そろそろ帰ろうかと風夏が思案しはじめる。
「じゃあ雪晴くん、わたしそろそろ……」
 そう言って風夏が立ち上がりかけると、野原の奥の草原から、がさがさと枯れ草が擦れる音がした。唐突な物音に、風夏はびくりと肩をすくませる。
「な、何?」
 風で草が揺れただけだろうか。しかし、風はまったくと言っていいほどない。雪晴がふっと眉をひそめて、静かに呟いた。
「何か居る」
「なっ、何かって何?」
「何か…生き物…かな」
「かなって…」
 音はどんどん大きく、近くなっていく。雪晴は立てひざをついて、揺れる草むらを凝視した。
 がさっ。
 草むらの間から出てきたのは、雪晴より少し下か、同い年ぐらいだと思われる少年。
 少年は雪晴を見て目を丸くすると、わなわなと体を振るわせた。
「あ、兄貴ーーーッ!!!」
「うわっ!」
 瞬間、少年は勢い良く雪晴に抱きついた。ばたばたと涙を零しながら、少年は雪晴にひっしとすがりつく。
「兄貴、ひどいっすよ兄貴ッ!! この俺を置いていくなんてーッ!! 本気で探しまくったんっすよーー!!」
「シュウ……分かった、分かったから」
「ゆ、雪晴くんの知り合い?」
 必死に少年をなだめる雪晴の隣で、事態についていけてない風夏が困惑しながら尋ねる。
 雪晴はため息をついて、すがりついたままの少年を紹介した。
「丹羽秋祐(にわしゅうすけ)。僕の…まぁ、友達かな。シュウ、こちら風夏。ほら、挨拶して」
「! あ、どうもすいやせん! ただ今紹介にあずかりやした、俺、秋祐っす! よろしくお願いしやす、姉御!」
 先ほどの泣き顔が嘘のように、ニコリと笑って頭を下げた秋祐に、風夏は戸惑いながらもぺこりとおじぎした。
「にしても兄貴もスミに置けないっすねぇ〜…俺のいない間にこんな可愛い子とお知り合いになってるなんてっ!」
「………」
「かっ、可愛いって…」
 にやにやしながら雪晴を肘で小突く秋祐に雪晴はただ頭を抱え、風夏はその言葉に頬を赤く染めた。
「あっ、さては兄貴、だから俺を置き去りに…!」
「シュウ、頼むから少し黙ってくれ……」
 喋り続ける秋祐を片手で押し留めて、雪晴は風夏に向き直った。
「そういえば風夏、まだ帰らなくて大丈夫なの?」
「あ! そうだった!」
 もうすぐ日が沈み切って暗くなってしまう。その前に帰らないと、母に心配をかけるだろう。
「送っていこうか?」
 少し心配そうに伺った雪晴に、風夏は笑って首を振る。
「ううん、大丈夫! それじゃあ、またね! 雪晴くん、と……」
「シュウでイイッスよ、姉御!」
 伺うような風夏の目線に気づいて、秋祐はぐっと親指を立てた。
「シュウくん。また遊ぼうね! ばいばい!」
 手を振って風夏が小走りに野原を後にする。
 静かになった野原に、山に帰ってきたカラスの鳴き声が遠く響いた。残された二人はしばらく無言だったが、秋祐がそっと口を開く。
「兄貴。もしかして、あの子……」
「………」
 雪晴は何かを考え込むように黙ったまま、野原にぽつんと生えている背の低い木にそっと触れた。


「あの野郎…くそ面白くねぇ」
 その頃、村の空き地で、剛士たちは輪になって腐っていた。
 気に食わないのは、途中で割り込んできたあの茶髪の野郎。楽しかった“遊び”を台無しにして、自分たちをコケにしてくれた。
「次会ったらぜってーただじゃすまさねぇ…」
 剛士がそう毒づいていると、ふっと目の前に影が差した。
「ねぇ、キミ、ユキハルが嫌いなんだって?」
 顔を上げると、そこに立っていたのは小学生かと思われるほど小さな男の子。
 突然現れた介入者に、剛士たちは色めき立って、男の子を睨みつけた。
「な、なんだてめぇ!」
「あぁ、心配しないで。ボクはキミたちの味方だよ♪ それより、ねぇ、ユキハルが嫌いなんでしょ?」
 にこにこ笑いながら尋ねてくる男の子に、剛士たちは眉をひそめた。
 ユキハルとは誰だ。そういえば、風夏があの野郎のことをそう呼んでいなかったか。
 それを思い出して、剛士は怒りに顔をゆがめた。
「あぁ、大嫌いだ! あの野郎、俺たちの楽しみを邪魔しやがって……」
 その様子を見て、男の子は明るく笑う。
「あはは、やっぱり!? ボクもあいつ、ダイキライなんだ〜」
 無邪気に笑う男の子の裏に黒く渦巻くものが垣間見えて、剛士たちの背筋が瞬時に凍りつく。
 こいつ……ただのガキじゃない。
「ねぇ……ボクに少し協力してよ」
 今更気づいても、時、既に遅し。
 男の子は怯えて動けない剛士達に、怪しく笑いかけた。

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